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ブランコの隣には、小さな砂場があった。――あったはずだった。どこにいったんだろう?
砂場にバケツやシャベルを持ってきて、砂場の近くの蛇口から水を出して、ウサギやお城を作っていた。女の子が多い日は、お団子をたくさん作っておままごともしていた。公園にある、小さな小さな私たちの『おうち』だった。それがなくなった公園は、すごく寂しくて。もうここへは来ちゃいけないよ、と言われているような気がした。
でも今の私は、この公園を出るわけにはいかない。だって、家には帰らないから。
私が覚えている限りでは、アスレチックの横にブランコがあって、砂場があって、その奥に、2つのベンチが並んでいた。赤ちゃん連れのお母さんが座っていたり、疲れた子がそこで休憩をしていた。木製の、白いペンキで塗られた可愛いベンチだった。このベンチを小さくして、家にあるお人形のおうちに置きたい、なんてワガママを言っていた頃を思い出す。
でもその白くて可愛いベンチも、変わってしまっていた。
2つ並んでいたはずのベンチは1つになっていて、背もたれや座る所は、青いプラスチックにジュースの会社の名前が書かれたものになっていた。あの白いベンチは、どこへ行ってしまったんだろうか。これは私が知っているベンチじゃない。私の知っている公園は、いつの間にかどこかへ行ってしまったんだ――と、やっと気付いた。
――なんで、こんなに寂しいんだろう。
――私の子供の頃の記憶は、全部夢だったのかもしれない。
だんだん不安になってきた。ここはどこだろう。私が見ていたと思っていたものは、本当は初めからなかったのかもしれない。なんだか、今の私がすごく汚れているように感じた。このままここにいれば、服も髪もビショビショにしている雨が洗い流してくれるのかな。でも、最近の雨はとても汚いと誰かが言っていた気がする。
――ここから出た方がいいのかもしれない。ここは、私の知っている場所じゃない。
そう思って、公園の門の方へ歩いていった。そこで、初めて気付いた。
2つ並んでいたベンチはなくなっていたけど、門の隣にもう1つ、青いベンチが置いてあった。そして、そこには私と同じように、頭のてっぺんから足の先までびっしょりの、大きな犬が座っていた。後ろ姿で顔はわからないけど、大きな体なのにとても小さく感じた。
私は、その犬の横に座ることにした。
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