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あの時の私も、この公園の木々のような、柔らかい匂いだった気がする。
その柔らかくて泥だらけの私を、お母さんはいつもふわふわした温かいタオルでくるんで、すぐお風呂場へ連れて行ってくれた。
あの時のお母さんは、いつも石鹸の匂いがして、私がどれだけ汚くなっても、すぐにきれいにしてくれていたことを思い出した。
「お母さん、遅いな…」
ぽつりと吐いたその言葉に、私が一番驚いた。
何を言ったの、今?
――帰りたいの?
「ううん、帰らない」
――どうして?
「だって、お母さんは私にひどいことをしたから」
――何をしたの?
「私の大切なものを、勝手に捨てたのよ」
――どうして?
「どうして?」
――大切なものを、どうして捨てたの?
「わからないわ。ゴミと間違えたんじゃないかしら」
――どうして?
「それは、たぶん…机の引き出しじゃなくて、じゅうたんの上に置きっぱなしだったからかしら」
――じゅうたんの上にあるものは、ゴミなの?
「たまに、洋服も置いてあるわ」
――洋服は、捨てないの?
「洋服は、洗濯をするのよ」
――洗濯をしないものは、いつもどうしているの?
「お母さんが掃除機をかけて、ゴミにして捨てちゃうの」
――どうして、掃除機をかけるの?
「部屋が汚くなるからよ」
――どうして、汚くなるの?
「それは…私が、あまり、掃除をしないから…」
――お母さんが、代わりにきれいにしてくれているの?
「そうよ。お母さんはいつも、私を…きれいにしてくれるの。部屋も、服も、私の体も髪も…。元気だねぇって、笑いながら、いつもきれいにしてくれていたの」
そうよ。きっと、今汚れてしまった服も靴も、お母さんは、おうちへ帰ったら、きれいにしてくれる。
だから私は、安心してここに来れたの…。
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