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云ってしまえばここまでが様式美――お約束の流れなのだ。
もちろん夜琥も先の展開を予想していたのだろう。夜琥は待っていましたと云わんばかりにぼくの返答から間髪を入れずに、そして案の定ぼくの内心をすらすらと――まるでマニュアルでも読み上げるかの様に言い当てる。
「『結婚してから今年でもう三年かあ』……とか、考えてたんでしょう?」
「完璧だね」ぼくは頷き、数回の軽い拍手を送る。
その言葉と拍手にやや呆れた表情を浮かべながらも――
「『完璧だね』、じゃないよ! で、でもまあ、千明が世間一般的な記念よりも……私たちの大切な記念日のことを考えてくれているのは……嬉しいけど!」夜琥はどこか照れ隠しの様に無邪気に云った。
ぼくと夜琥が結婚したのは三年前の二月十四日。
お互いに最も好みだったあのお菓子が――その日を選ぶ一番の決め手となった。
そしてその日以来、ぼくと夜琥にとって二月十四日とは希望者全員参加の『世俗的なイベント日』ではなく、二人だけが参加を許された『結婚記念日』へと、その意味合いを変えたのである。
「ちなみにさっきの答えは『ビター』だよ」夜琥は微笑した。
「それ……数年前も同じじゃあなかった?」
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