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「そうだったっけ? まあ、そこまで幅を持たせられるものでもないからね」
「たしか、その時は『ビター』から話が進んで――」
そう云っている途中にぼくは悪戯心からの笑みを浮かべた。たまにはお約束の流れだけで終わらせないのも悪くはないと考えたからだ。
とどのつまりは――ちょっとした仕返しである。
「では、ここで問題です。数年前は『ビター』から何の話に進んだのでしょう?」
ぼくは意図して先程の夜琥と同じ様に、意地悪な視線を送る。
「んえ? ……………………ヒント」
突発的な出題に夜琥は驚いた様子を一瞬見せた後、すぐにぼくの意図を察したのか長めの沈黙を落とすのだが――諦める様に夜琥はポツリと云った。その表情からは僅かに悔しさが滲み出ているのが分かり、ぼくはこの手の流れで初めて夜琥よりも優位に立てた気がした。
「その時には、結婚は決まっていたね」ぼくは自らも当時を思い返す様にヒントを伝える。
再びの沈黙の後に、夜琥は一つの答えに辿り着いたのだろう。その答えに自信をのぞかせる様に笑みを浮かべて――
「『ビター』から――『大人』についての話になった!」と、夜琥は云った。
「おお。正解」
「えへへ、結婚直前の時だったよね。懐かしいねえ」
「そうだなあ」ぼくは頷いた。
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