『チョコかと思ったら……』

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 ヒントを出したとはいえ、すんなり当てられてしまった悔しさは少なからずあった――しかしそれ以上に当時の思い出を互いに共有出来ていること。そしてその思い出を今でもこうして二人で話題に出来ることへの幸福感の方が強かった。  三年前――結婚を間近に控えたある日に『ビターは大人の味と云うけれど――大人になるってなんだろう』と、どちらからともなく出された話題で盛り上がった。  ――成人を迎えたら。 ――経済的な独り立ちが出来たら。 ――お酒を嗜める様になったら。 ――苦味を覚えたら。  時にふざけ合い、時に真面目に、様々な意見を出し合いながらお互いに『大人』と云うものについて考えてみたが――結局、その時には納得のいく結論には辿り着くことはなかった。 ただ、『結婚した後に、見つかる何かもあるんじゃない?』という夜琥の言葉が強く印象に残った。  あの日から三年の月日が流れて、今のぼくは三度目の結婚記念日を間近に控えているが、夜琥の云った『何か』を見付けることが出来たかどうかと云えば――甚だ疑問だ。  確かに夜琥と結婚して責任感は強く抱くようになった。『夫』という肩書の重さも理解してはいるつもりだ。でも、それが『大人になる』ということなのかはぼくには分からなかった。 「難しいよねえ……『大人になる』ってさあ」  夜琥の言葉で深い思考の世界から、我に返った。  ――夜琥も同じことを考えていたのだろうか?     
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