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「まったくだな」ぼくは夜琥に同調し苦笑いを浮かべ、さらにその言葉に続けるように――
「結婚してみて色々学んで、責任も付いて回る様になったけど――ぼくが大人に成れたかどうかは、それとは別問題な気がするよ」ぼくは素直な心情を吐露した。
「夫婦にはなったけど、それが大人になったことなのかは分からないってこと?」
「うん。そうとも言えるな」
「えへへ……私も同じく、だよ」そう云いながら、夜琥は困り顔で笑う。
夜琥も同じ気持ちだった――それが分かってぼくは少しだけ心が楽になった。
それは、夜琥が一人だけ先に大人びてしまったのではないかという幼稚な不安を抱いていたからに他ならず――やはりぼくはまだ大人に成り切れていないのだと自覚した。
「でも、焦ることはないと思うんだ」夜琥は云った。
「どうして?」ぼくは疑問で返した。
「夫婦になって、お互いが成長しているって実感はあるんだもん。……それに――」
夜琥はそこで言葉を一度区切り、ぼくを見つめ微笑みかける。
その微笑みは、今まで見てきた夜琥の表情の中でどれにも当てはまらない――普段とは別の温かさを持っている様に思えた。
そして少しの間の後に、夜琥はゆっくりと続きを話す。
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