第1章

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 昼休み終了間際、チョコを抱えて教室に戻って来た玲央に軽口をたたくのは三枝と椎名だ。二人ともイケメンに属する容姿をしており、玲央がクラス内でつるんでいるメンバーだ。サッカー部でがっしりした体格の三枝と軽音楽部でベースを弾いている細身の椎名とそろって、女子から三組のイケメンスリートップと呼ばれている。 「おまえらだって、チョコもらってんだろ」  まずクラスの女子に朝の挨拶とともに渡され、お昼には先輩と後輩からもらっている。放課後にも何個かもらうはずだ。しかも放課後の方がガチ率が高い。 「いやー、玲央の足下には及ばないって」 「何個もらってんだよ? 持ち帰り用の紙袋、一つじゃ足りなくね?」  椎名の言うように、家から持ってきたチョコを持ち帰るための紙袋はすでにいっぱいだ。だがなんとかして全部持って帰らなければならない。おいて帰ったら、ひどい男のレッテルを貼られかねない。 「困ったな……」  紙袋を二つ持ってくるのはさすがに引かれるかと思ってやめたが、持ってくればよかったか。 「おーい、誰か袋持ってね?」 「ミスター慧光がチョコもらいすぎで困ってる」  椎名と三枝が教室内に向けて声を掛ければ男子からはブーイングが飛び、ノリがいい一軍女子からは「段ボールで持って帰れ」と明るい声が飛ぶ。 「そっか、段ボールにつめて自宅に配達……って、俺はどこのアイドルだよ」  ノリツッコミをすれば、教室内には笑い声が沸く。チョコをくれた一軍女子の機嫌は取っておいて損はない。それ以外はどうでもいい。 「来年は事務所通せばー?」 「星来とか、かわいい女の子からは直接もらいたいんだけどー」 「マジでー」  星来は頬を染め、まんざらでもない顔をしている。  本音を言えば、星来のチョコはいらない。トリュフらしい、いびつな手作りチョコはお世辞にもおいしいとは言えない。星来グループで一番おいしいのは、有名店のチョコをくれる梓だ。スレンダーでナチュラルメイクな梓は大人びていて、玲央はひそかに心惹かれている。  そんなやり取りをしているうちに昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。まずい、机の上にはチョコが山と積まれている。 「玲央、これ」  椎名がナイロン製のバッグをこっそりと玲央に差し出す。小さな花柄で、何かの付録らしいエコバッグだ。 「菅さんが貸してくれたから。先生来るから入れるよ」
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