第1章

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「椎名、バッグ広げて。ブルドーザー作戦する」  椎名が机の端にエコバッグの口を広げ、三枝が机の上にあるチョコを両手で押しいれていく。 「椎名、菅さんって誰?」  他の生徒に聞こえないよう、小声で椎名に聞く。星来は山田だし、梓さんは出席番号が早いからサ行名字ではない。  問われた椎名は目をぱちくりとさせ、玲央の声が聞こえていたのか三枝はぽかんと口を開けている。それも一瞬で、我に返った椎名は眉間にしわを寄せ口元を手で隠したうえで、小声で話す。 「クラスメイトの名前くらい覚えてろよ。一年間、一緒に過ごした仲間だろ。おまえの左側、最後尾に座ってる子」  なるべく自然さを装って、玲央は左後方部を見る。  一番後ろに座っているのは、校則を順守しているような黒いヘアゴムで髪を一つにくくっている女子だ。彼女が菅さんか。話した記憶はないし、チョコをもらった覚えはもちろんない。 「おーい、授業始めるぞー。ミスター慧光、チョコを俺に見せびらかすな」 「すんませーん」  授業にやって来た世界史の駒井に軽く頭を下げる。三枝と椎名がチョコを入れてくれたエコバックを教室の後ろ、ロッカーの上に紙袋と並べて置くと授業が始まる。  駒井の授業は割と面白い。当時の小ネタや現代ネタを所々に入れてくるから、五十分の授業があっという間に終わる。今日も気づけば、すでに三十分が過ぎている。教室内は駒井のネタに乗った三枝が笑いを取っている。  そんないつもの授業中に、ピピピ……と電子音が響く。 「誰だ? すぐ切れよ」  駒井の言葉に何人かがスマホをチェックするも、電子音はまだ続いている。 「おーい。今ならまだ怒んないから早く切れー」  犯人を捜すように教室内の目が疑いを向け合う。 「……後ろ?」  菅の隣に座る、玲央の記憶にない男子生徒がロッカーを指さす。ロッカーにあるのは、部活用の荷物や置き教科書や資料集だ。スマホならみんな貴重品として手の届くところに置いてあるはずだ。 「玲央のチョコの中じゃね?」 「え……?」  三枝の言葉に信じられない思いで立ち上がり、ロッカーへ急ぐと確かに音が近くなる。紙袋とエコバッグ、それぞれに耳を近づけてからエコバッグが音の発信源であることを突き止め、エコバッグの中を漁る。紙袋やビニール袋が入り乱れ、中に同封されていた手紙ももはやチョコと紐づけできない。 「これか!」
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