第1章

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 誰だ。一体誰が、何のためにキッチンタイマーなんか入れたんだ。ラッピング中に混入してしまったとしても、数時間後に設定することはできない。ならば誰かが授業中に鳴るように設定したはずだ。それが可能なのはチョコをくれた人間とチョコを片付けてくれた三枝と椎名、エコバッグの持ち主である菅だ。  三枝と椎名は玲央の友人であるから容疑者から外される。彼らには玲央を陥れる理由もなければ、メリットもない。菅はどんな人物か知らないから注意が必要だ。問題はチョコをくれた人間。かわいいことで有名な子なら記憶にあるが、そうでない子は顔を見てもぴんと来ない。去年もチョコをあげたのに覚えていなかった逆恨みか。  ピピッ、ピピッ……。  再び鳴る電子音に、教室の空気が張りつめる。 「あぁ! もう!」  苛立ちを隠さず机を叩いて立ち上がると、菅が再び肩をびくりとさせるのが視界に入る。いちいちイライラする女だ。  紙袋に耳を押し付けても音はせず、やはり音がしているのはエコバッグだ。 「どれだよ!」  イライラしながらエコバッグの中身をロッカーの上にぶちまけ、エコバッグは床に投げつける。一つ一つのチョコに耳を傾け、リボンがかけられた有名店のチョコを見つける。箱に耳を近づけると、電子音が聞こえる。 「これか!」  リボンを取り、包装紙を乱暴に破る。箱を開けると、中にはチョコではなく板チョコを模したスマホケースが入っている。スマホケースを取り出すと、電子音がぴたりとやむ。 「玲央、どうしたー」 「……スマホでした」  振り返ってスマホケースを掲げて見せれば、駒井が鼻で笑う。 「ある意味、チョコには間違いないな」 「やべー、ウケる」 「ってか、それ誰の?」  クラスメイトがそれぞれの反応をする中、「ごめん」と立ち上がるのは梓だ。 「多分、私が知ってる子のだ。板チョコのスマホケースに見覚えがある」  梓は玲央のもとにやってきて、自分のスマホを取り出し操作すると玲央の手元にある板チョコスマホから再び電子音が流れる。 「やっぱり。そそっかしい子なんだ。先生、これは私から本人に返しておきます」 「おー、頼むぞー。時間ないから駆け足で進めるぞー」
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