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久しぶり、と俺は言った。コイツとは中学卒業以来だ。
ちょっと話せない? 榊が言い出し、俺らは人目を避け表へ出た。
「ミトン、使ってくれてたんだね」
「まあ、ちょっと古くなったけどな」
「新しいの、編んであげよっか。今度のバレンタインに」
フと俺は笑った。「編めんのかよ」
「……いまだから言うけどね、それ、左手のは私が編んだんだよ」
「え?」
榊は過去を振り返るように雪の舞う虚空を見上げる。「理瀬の予後は思わしくなくて、右手の分だけを編み上げるのが精一杯だった」
そこで、自分の無力さに涙を呑む理瀬に彼女は言った。あとは私がやる。編み方教えて。
「だからそのミトンには理瀬と私の想いが込められてる」
そのとき、俺の視界が滲んだ。
俺は右手のミトンを外し、彼女の右手に嵌めさせる。
ずっと心に秘めてきた想いを伝えるように、俺は空いた手で、そっと君の手を握った。
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