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君の手
朝の学活が終わると、3人の女子が詰め寄るように俺の席の傍らに立った。
「野崎くんがやったの?」
口を開いたのは大沢遙である。追及するその声は確信に、見つめる瞳は不信に満ちてるようだ。短くかわいらしいポニーテールさえいまは好戦的に見える。
「だったらどーすんの?」フフンと俺は挑発的に睨み返す。
「ちゃんと答えてよ。野崎くんがやったの?」
先ほどの周知によると、3年フロアの女子トイレでその個室の仕切り壁や扉のパネルが壊されたらしい。
思わず俺は笑った。3年だけでも百数十人いるというのに、コイツらは俺がやったと信じて疑わないのである。恐るべき思い込みだ。
証拠を出せと言えばコイツらは黙らざるを得ないだろうが、疑念を払拭するという点では逆効果だろう。
大沢の口調が熱を帯びた。「やったんならちゃんと名乗り出てよ。で、今度こそみんなに謝って。いまだいじな時期なんだよ」
彼女の意図を理解した。コイツが求めてるのは俺の謝罪という行為であり、さらにいうなら、こうして俺を追及すること自体を目的としている。俺がこの件の犯人かどうかなんてたいした問題じゃないのだ。このての悪戯で犯人が見つかることはまずない。
「どうもサーセンでした」
大沢はドンとてのひらを机上に叩き付けた。が、話はここで終わった。1時間目開始のチャイムと同時に教師が入ってきたからである。
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