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佐々木の卒業証書は、彼女の母親が代わりに受け取った。
命の大切さ。命は貴い。強く生きて。校長の式辞にはそんな美辞麗句が雑音のように並んだ。すすり泣く声が終始絶えなかった。式典を終え、最後の学活。大屋先生の言葉はほとんど言葉の形を成していなかった。みんなが泣いていた。
俺はまったく泣かなかった。
その帰り、俺は榊とともに佐々木の家を訪れた。そのリビングに祭壇が設けられていた。宗教色はなく、遺影を中心に花を飾っただけのシンプルなものだ。俺は榊と並び、手を合わせた。ありがとうございます、と母親が言った。野崎くんが来てくれて、きっと理瀬も喜んでるでしょう。俺はきわめて丁重に礼を言われた。
佐々木宅を辞去すると榊が言った。「ごめんね。いままで黙ってて」
「いいよ。俺が知ってたとこで佐々木さんになにかしてやれたわけじゃない」
「理瀬の代わりに言うよ。君が好き。バレンタインにそれを贈ることにしたのは、彼女なりの告白だったんだよ」
理瀬のミトンは俺の手にしっかり嵌められている。
それでも俺が泣くことはなかった。
ただこんな自分が生きてるのが恥ずかしかった。
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