君の手

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 雪が舞う。気温は1℃前後の冬日で、俺は外出したことをいまさらながら悔やんだ。出席はべつに義務じゃない。とはいえここまで来てしまった以上、引き返す気も起らない。足が局所的にズキズキと痛む。慣れない革靴のせいだ。ミトンに包まれた両手だけがぬくく心地いい。  もっともそのミトンもいまやサイズが合わなくなっていた。  華やかな和装の女子がやたら目に付くようになってきた。わらわらと集まってきた似合わない正装の若者たちは、掃除機に吸い込まれる塵のように市民ホールへ入ってゆく。俺は再会した誰かと言葉を交わすこともなく、足早に屋内に入る。  コッ、コッ、コッとヒールの音がホールの玄関に響く。 「野崎」  振り返ると、ノースリーブの青いドレスで決めたノッポの女が近づいてきた。 「お前なんだその恰好」  フフと榊は笑う。「成人式は振袖なんて誰が決めた?」
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