一、Green-eyed Mountain

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一、Green-eyed Mountain

ひどく底冷えのする晩だった。 月明かりは白々と冴えて、切り立った山脈の(ひだ)打つ鋭角を浮き上がらせる。およそ人間を受け付ける気のない峻嶺は、黙ってじっと風のなかに凍りついている。たぶんそのなかにはもう一万年は融けていない顔があって、クレバスの底でなにか思案しているのだし、まだ人間には未知らしい足の長い昆虫たちが、月夜を狙って産卵している。そういうのを僕は、分厚いテントの隙間から見た。 長く愛用しているから替えようと思わないだけで、たぶんほんとはテントに隙間なんてあってはいけない。ヒトの匂いがするからクマやシュンペイメイなんかが来たらまずここからぶっ裂かれるし、第一風や雨雪が入って寒い。自分の足の指を自分で切り落とすのはすごく気が引けるから、すぐ手前で夜通し小さな火を焚いたりして、凍傷にだけは気を付けている。 愛しい隙間に指を入れて、少しだけ開いてみる。     
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