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「…『切ない』」
ぼそり
殺し屋が小さく呟く
まん丸と見開いた目は
あの日と同じ表情をしている少年を映していた
心臓を握られたような苦しさと
ひりつくような喉の痛み
彼のそんな表情を見ると、自分までが辛くなる
「…もし、わたしが君に何かを望めるなら」
ぽつり
零した言葉と共に、殺し屋が頬にかかる少年の手に触れた
夜風に晒された彼の指先は、ほんの少し冷たくて
心地が良い
「…君にそんな顔をして欲しくないな」
ただただ
それだけ
「少年には『悲しい』も『寂しい』も『切ない』も、して欲しくない」
君が
そんな思いをしているんだと考えると
その表情を見ると
心臓が変な音で軋んでいくから
「…君のために、わたしは何が出来るだろう」
ああ、でも
「…逆だね、これだと」
ふふ、と
殺し屋が笑う
それは
少年も
はたまた
殺し屋自身も
今までに浮かべた事のない
心の底から現れた「笑み」だった
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