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「ハロー イリス」
〈ハロー マスター〉
2045年 3月24日 AM 5:00
暗闇の中 少々不機嫌な自分の声に対して
一定の音程で 機械的に響く女性の声。
「イリス 明かりを」
〈はい マスター〉
闇が徐々に光を取り戻し、周りの景色に形と色を与えていく。
形と色を取り戻した部屋は 窓から入る光によってもたらされる。
闇に染まる窓から闇が消えて 光が射す
これが一日の始まり。
目に急激な刺激を与えないよう
ゆっくりと明るくなっていくのは瞼の裏側を見ていてもよくわかる。
それでもほんのり残る睡魔に勝てず、明るさの度合いによって赤色に見えてくる瞼の裏側に不快を感じ
腕を置いて光を妨げた。
淹れたてのコーヒーの香りと焼きたてのトーストの香ばしい香りが嗅覚を刺激する。
〈マスター 朝食の準備ができています〉
ゆっくりと腕を退かし 眼を開ける。
多少の眩しさはあるがすぐに不快感は無くなった。
部屋に光を与える窓に目を向ける。
横になっているので空しか見えないが、雲一つ無い晴天というやつだ。
目覚めたばかりの身体を起こし、身仕度を始めていると機械的な声が淡々と話し始める。
〈本日は終日晴天の予報です 気温は16.5 度
風は穏やかで過ごしやすい一日となります〉
ほぼ聞き流しながら身仕度を終えリビングに向かい
朝食の用意された食卓に席につく。
汚れ一つない白いマグカップに注がれたコーヒーは
香ばしい香りを湯気に乗せて漂わせる。
キツネ色に程よく焼かれたパンが二枚、その上に乗せられたバターがパンの熱によってゆっくりと溶けていく。
少し大きめのお皿に乗せられたパンの隣にカリカリに焼かれた、少し焦げ目の付いたベーコンエッグと少量のポテトサラダ、ポテトサラダの上には色付けにパセリを少量まぶされていた。
マグカップに手を伸ばし、徐々に強くなる香りと湯気からの熱気を感じながら、少量を空気を含ませて飲み込む。
「……熱っ!」
舌に直接触れた瞬間にすこしの痛みが走る。
コーヒーは好きだが熱いのはなかなか飲めない。
明日からはアイスコーヒーにするかと思いながら
マグカップを静かに置いた。
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