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一体どれだけあるのか判らないが、うず高く積もった様々な服が、裂け目の底で折り重なっているのだ。
風が更に強く吹きつけた。
青年は四つん這いのまま。裂け目を離れた。地形の所為か、風が渦を巻き、裂け目に流れ込んでいるように感じたからだ。ざざざっと音がする。立ち上がると、裂け目の底で舞い踊る服達がちらりと見えた。
青年は見張り台に目を移した。
もう目と鼻の先だ。
見張り台には長方形の、窓らしきものが開いていた。
そこに誰かが立っているような気がする。
そして、その誰かは自分を見ている。
青年はそう感じた。
「よお、新兵。そんな所に突っ立てないで、まあ、座れ」
青年は敬礼をすると、直立不動のまま部屋を見廻した。長い階段を登ったそこは、五メートル四方の部屋だった。床はコンクリートだったが、壁は岩肌をくり抜いたそのままに、ごつごつとしている。青年が入ってきたものとは別に、閉まったドアが左奥に一つある。
床には小さなランプと、ストーブ。隅には薄汚い毛布が積んであった。壁の一方には、外から見たあの窓があるが、それは岩肌を、ただくり抜いただけのもので、窓ガラスなどの塞ぐ物は一切ない。だから、薄暗い部屋に吐き出される息は、真っ白だった。
その窓際に、誰かが壁に寄り掛かって座っていた。
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