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三年生になった。二回目の受験生だ。進路もちゃんと絞れた。
私は、自分の夢を某大手お菓子メーカーに就職することに決めた。最初にその目標を志したときは、できれば広報になりたいと思っていた。多くの人が「美味しい」と言って、幸せになれるような、そんなお菓子を日本中に広めたかった。
もし広報を本気で目指すなら、文転すべきだったんだろうと思う。だけど、私はそうしなかった。
理系の勉強が、どうしても好きだったのだ。それに、文系の大学から大手メーカーを目指したときの競争率に目眩がした。
そこからもう少し考え直してみたけれど、そのお菓子メーカーに就職したいという意思は変わらなかった。
そのメーカーは、例のチョコを作った会社だったのだ。あの会社で働いてみたい。そんなふわふわした気持ちは、地に足のつかない意思でありながら、最後まで揺るがなかった。
進路指導の先生とも相談して、農学部に進むことにした。品質管理や品質保証の仕事になるかもしれないけれど、それでもいいと決断した。
どうせ行くのなら、目指すは難関校だ。できるだけ、あのメーカーに見初めてもらえるような学校に行く。そんな決意を乗せて、私はシャーペンをノートに走らせた。
そろそろ休憩にしよう。シャーペンを置いて、机に持ってきていたチョコにそろりと手を伸ばす。この箱の中にあるのは、これが最後のひと粒だった。口の中に放り込んだチョコを、かり、と噛んで、大好きな甘みを堪能する。
十二粒の「いいこと」が入った、チョコレートケース。今は空っぽのケース。
この中に入っていたチョコを、私は毎日食べていた。一日ひとつ。十二年分なら、何粒になっていたのかな。ふと気になって、計算式を書き出す。
一年を三百六十五日とするなら、四千三百八十個。
小学一年生から、高校三年生までで、四千ものチョコレート。私は、四千個の「いいこと」を食べてここまで来た。
そう考えると、なんだか、胸が膨らむ想いだった。私は、明日も、明後日も「いいこと」を食べて暮らしていく。もっとたくさんの「いいこと」が、私に蓄積されていく。
明日になったら、チョコを買いに行こう。「いいこと」を、チャージしていこう。
そう思いながら、私は勉強を再開した。
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