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中学2年に上がるころ、友だちが、部活を辞めた。
うちの部で一番体力のなかった子だ。だけど、体力がなかった以上に、運動部の性格が彼女には合わなかったのだと思う。
とても温和な性格の子だった。それ自体は悪いことじゃないんだけど、勝つか負けるかの世界で生きていくのは辛そうだった。
「私は辞めちゃうけど、これからもがんばって」
退部の日、ロッカールームで荷物を片付けながら、彼女は私に寂しそうに微笑んだ。
どうしてあなたがそんな顔するの。理不尽に、私は思った。
残される私が寂しいのに、どうして辞めるあなたが寂しそうな顔するの。
自分の中から湧き上がる不条理な気持ちを抑えつけて、笑顔を作ろうとする。
「ありがとう。あなたのぶんまで、がんばるよ」
微笑みは、上手にできただろうか。いや、微笑むことは、正しかったのだろうか。
少なくとも、涙をこらえることはできた。ただ、家に帰ってからは、ぼろ泣きした。
転校というわけでもなく、学校に行ったら会えるのに、どうしてそんなに悲しかったのかわからない。
私の好きな部活から、私の好きな友だちがいなくなった。喪失感が胸の内を埋めた。
チョコを食べれば、少しは元気になるはずだ。私は冷蔵庫からチョコの箱を取り出し、泣きながらひと粒頬張った。
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