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「お話があります」
「亜由美ちゃん‥‥改まって何? どうしたの?」
今日の仕事も終わりかけた作業場の草太兄を正面にとらえる。おじいちゃんは遠くで聞き耳を立てている。
「あの、今日は2月14日なので‥‥これを!」
家に帰ってきて超特急でラッピングした箱を差し出すと、草太兄はにっこりと笑う。
「そっかぁ、今日出かけてたのはこれかぁ。ありがとう」
にこにこにこにこ。毎年恒例のお礼を言われる。毎年同じ。『ありがとう』って。『嬉しいな』って。
「嬉しいなぁ‥‥っえ?」
草太兄の言葉が止まる。ちょっとお高いチョコレートの下に見える紙たちを取り出す。
「え? は??」
草太兄の語彙力が仕事しない。そりゃそうだ。普通ではないものを入れておいたから。
「な? これ? え??」
草太兄は手にした預金通帳とすでに保護者欄まで記入された婚姻届を手に戸惑う。
「草太兄‥‥いえ、草太さん。私と結婚してください!」
「し、師匠!? ちょ、師匠!? 亜由美ちゃんがおかしなこと言ってますけど!?」
真剣な私のまなざしから逃げるようにおじいちゃんに助けを求める草太兄。
「んー? まぁ、お前もまんざらじゃないんだし、そろそろ自分の家族作ってもいいんじゃないか?」
「師匠!? そういう問題っすか!?」
「その預金通帳は結納金です。足りなければこれから働いて稼ぎますんで! あ、私の卒業後の進路はおじいちゃんに弟子入り決定してますんで、兄弟子として毎日ご指導お願いします!」
「師匠!? 俺、めっちゃ嵌められてます!? グルっすか!?」
顔を真っ赤にして泣き出しそうな草太兄におじいちゃんはニヤリとする。
「んー‥‥まぁ、なんだ。いい後継ぎがいてくれるとワシも安心じゃあねぇか」
おじいちゃんに聞いて知っている。草太兄は私の事嫌いじゃない。だから私にもワンチャンある! はず!
「あー‥‥あのー‥‥その‥‥」
草太兄は言葉を選びながらこう言った。
「返事は3月14日まで待ってください‥‥」
恥ずかしそうに俯いていた顔を上げ、草太さんは覚悟を決めたようにそう言った。
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