2月

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2月

 おじいちゃんの家は窯元で、おじいちゃんは陶芸の作家だ。そしてお弟子さんがいる。私は草太兄(そうたにい)と呼んでいる。草太兄曰く、自分は親に捨てられたけど草のように強く育てという意味で施設の人に名づけられた、と。おじいちゃんに本当かどうか聞いてみたけど「さぁな」と笑ってはぐらかされた。草太兄も笑っていた。  私は中学生のころから両親の離婚と転勤に伴っておじいちゃんの家で暮らすようになった。田舎のおじいちゃんの家はのんびりしていて案外居心地が良い。そんな暮らしも既に4年ほどが過ぎた今年2月、そろそろ高校の卒業を目の前にして色々と私も身の振り方を考えなければならなくなってきた。 「亜由美ちゃん」  作業場の隣の自宅で夜ご飯を作っていた私に、草太兄が声をかけてきた。 「おじいちゃんは? 今日はご飯食べていくの?」 「師匠はもう少し作業するって。亜由美ちゃんが一人でご飯食べるのはかわいそうだから、一緒に食べていってくれって」  草太兄は大根を切る私の隣に立って、手を洗い出す。ついでに顔も洗い出す。 「顔洗うのは洗面所! ここは料理する場所!」 「あー‥‥ごめん。つい」  そう言いながらも、顔を洗いきって手拭きのタオルで顔を拭く。 「もう! ダメじゃん! 新しいタオルだしてきてよ!」 「はーい」と言ってタオルを取り換えてくれる。手慣れたいつもの光景だ。 「そういえば亜由美ちゃんは卒業後の進路って決まったんでしょ? どうするんすか?」  ‥‥あー、それ聞いちゃいますかぁ。 「うん、まぁ、絶賛活動中でおじいちゃんにも相談はしてるから大丈夫だよ」 「? 活動中?」  言葉を濁した私に、草太兄は首をかしげる。 「希望は大きく、夢も大きく! だから、今は秘密ね」 「‥‥そっかぁ。なんか壮大な野望があるわけかぁ。いいねぇ。若者は」  草太兄は大きな声で笑うと、一人で納得したように頷いていた。
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