容疑者、不在につき【問題篇】

1/1
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ

容疑者、不在につき【問題篇】

 フリーターの青年が何者かに刺殺された事件で、私は花菱警部補とともに容疑者である田代誠司(たしろせいじ)の自宅を訪れた。インターホンを鳴らすと、しばらくしてからパジャマ姿の女性が戸口に出た。 「田代誠司さんのお宅ですか。八木柊吾(やぎとうご)という男性が殺害された事件で、誠司さんにお話をうかがいたいのですが」  花菱警部補の警察手帳を、女性は戸惑いの表情で見やる。 「誠司はいません。県外で就職してそのまま向こうに。今ここには私しか住んでいないんです」  田代夫人は私たちを家の中に招き入れた。薄暗い玄関には、かかとを踏み潰した男もののシューズが並んでいる。 「息子が殺人事件に関わっているのですか」  流しの蛇口をひねりポットに水を入れながら、夫人は訊ねる。手際よく湯を沸かし、二人分のコーヒーを用意してくれた彼女に私は別の質問を浴びせた。 「あの、夫人は今起きたばかりなのですよね。チャイムの音で目が覚めたのですか」 「ええ」怪訝な顔をする夫人を、私はじっと見つめる。 「嘘はよくないな。あなたが息子さんを庇ったところで、警察の目は誤魔化せない。誠司くんは二階にでも隠れているのではないですか」 Q:「私」が、田代誠司が家の中にいると推理した理由は?
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!