彼岸の涙

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彼岸の涙

 川のほとりに立っていた。  対岸には愛してやまない彼女の姿がある。それでここがどこか理解した。  三途の川のこちらとあちら。一年前、彼女は事故で向こうへ行ってしまった。  あれから生活に何の張りもなく、毎日をただなんとなく生きている。そしてことあるごとに、向こうに行きたいと思っている。  自分の身に何が起きたのかは判らない。会社帰りだったことは覚えているから、交通事故にでも遭ったのだろう。  ここにいるということは、俺はかなりの重体なのか? だとしたら、向こうへ行ける…?  生きてる張りはないけれど、自殺しようとまでは思わなかった。なんとなく、それだと彼女の所へ行けない気がしたから。  でも、事故死なら仕方がないよな。  きっと彼女は俺を迎えに来てくれたんだろう。  ありがとう。待たせたね。すぐそっちへ渡るよ。  そう微笑んだ俺の眼に映ったのは、大粒の涙を流す彼女の姿だった。  こぼれた涙が川に降り注いで、たちまち川の水が量を増す。  さっきまでは歩いても渡れそうな水量だったのに、これじゃあ向こうへ渡れない。  なぁ。頼むよ。泣かないでくれ。キミが泣いたら俺はそっちへ行けないままだ。  そう思えば思う程彼女の涙は激しくこぼれ、川は溢れ返りそうな水量になった。  それを見ていて気がついた。ああ、そういうことか。 「俺、頑張って生きるから。キミの所へ向かうのはかなり先の話になると思う。その時に、また会おう」  彼女が泣き止む。水かさは増したままだけれど、もうこれ以上増える様子はない。  今でも好きだよ。こちらとあちらに別れてしまってもずっとずっと好きだよ。  そんなキミをコレいじぅ泣かせたくない。悲しませたくない。だから俺は、キミが泣かずに俺を迎えてくれる日まで、頑張って生き続けるよ。  それだけ胸の中でつぶやき、彼女に背を向けた。  きっと今、彼女は嬉し気に微笑んでいてくれるだろう。 彼岸の涙…完
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