喝っ!

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あれから数年が経ち、妹は就職し、職場の同僚と 結婚した。 今日、私は父と妹の旦那と一緒に、病院の廊下で ウロウロしていた。 妹が立ち会い出産を嫌がったので、仕方がない。 妹の出産に感慨深い物を感じつつも、妹と子供の 身体が心配で、ソワソワしてしまう。 「んんんんおぎゃーっおぎゃーっ!!!」 赤ちゃんの産声が響き渡り、私達は喜びで顔を見合 わせた。 看護師さんから入っていいですよ、と言われ、ドキ ドキしながら対面する。 まだ産まれたばかりで皺くちゃで、ちょっと顔が ぶちゃいくな状態の赤ちゃんを抱いた妹が元気そう なのを見て心底ホッとする。 「頑張ったねぇ!」 と感激で涙目になりながら声をかけると、妹は ちょっと疲れた様子ではあるが、私にニッコリと 微笑み返して安心させてくれた。 私が、赤ちゃんのちっちゃな鼻を人差し指で突つくと、むず痒そう手をバタつかせる。 その仕草が可愛くてつい顔がほころぶ。 と、同時に私は、赤ちゃんの魂に、妹の彼氏の魂を 感じる。 妹の彼氏そのものではない。けどこの子は…。 ハッとして妹の顔を見る。 …おそらく妹は気づいていない。 愛おしそうに赤ちゃんを抱く妹の姿に、私はその 事実を 知らせるのを辞める。 「この子は、将来、何になるのかなぁ!!さっき僕  の手を足で蹴ったから、もしかしたらサッカー  選手かな?それとも、君に似て頭が良くて、  …凄い科学者になるのかな?」 気が早く、妹の旦那は自分の息子の将来を夢想して いる。 「そして、凄いお金持ちになって僕たちに恩返し  してくれて…」 と、ちょっと都合のいい事を言い始めて、妹に頭を 叩かれている。 「こら!何勝手な事言ってんの!」 妹は赤ちゃんの小さな手を握りしめながら言う。 「この子が元気に成長してくれる。それだけで  何にも変えがたい恩返しだよ。」 私はその様子を微笑ましく眺める。 私は仕事の時間が迫っているのに気がつき、また 来る事を約束して病院を出る。 私はあれから自分の能力を高め、霊を成仏へと誘う 霊媒師を生業にしている。 最近、修行によりますます筋肉がついてしまった。 やれやれ。
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