春と秋が交わる時

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春と秋が交わる時

時は平安、まだ人々が祟りや霊の存在を近くに感じられた頃の話。 神代よりの舞の名手といえば俺の事、名を悠月(ゆづき)と言う。都から少し離れた山に居を構え、日がな一日山上の舞台にて、もうすぐ行われる祭で奉納する舞の稽古に明け暮れていた。 ある日、俺の住む(いおり)に、一人の女の人が訪ねてきた。奥ゆかしい雰囲気の美人で、名を八重(やえ)さんと言った。彼女は藪から棒に、俺に頼み込んだ。 「どうか、私と一緒に我が主を探して頂きたいのです」 その時は「なんで俺に?」と思ったが、彼女曰く、主人が昔、俺の事を話していたそうだ。舞の名手ともなれば自然と顔も広くなる。自慢じゃないが、貴族に僧侶、歴代の帝だって知っている。事実、名を聞かされると、面識のある人物だった。     
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