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さて、佳代子の手から拓哉に渡り、あとは中のチョコを食べてもらうだけだ。もう俺に出来ることはないが、彼が家に帰るまで中身を無事に守ることに徹しよう。
七号館を出ると、出口で男が一人待っていた。
何度も見たことがある。拓哉が一年生の時から、よく一緒に行動している友人だった。
「悪い、持っててもらって」
拓哉が相手から、大型の紙袋を受け取る。
「構わねぇよ」
紙袋の中は、チョコかクッキーでも入ってると思しき箱が、大量に積み重なっていた。
今日、これまでに拓哉がプレゼントで貰った分なのだろう。拓哉は、俺が入っていた白い紙袋をちいさくたたむと、俺と共に一緒に中に入れた。
二人が歩き出すと、横からフランス製のチョコを包んだパッケージが、ガツガツと遠慮なく当たってくる。
「くそ。高級チョコだと思って、調子に乗りやがって」
周囲に聞こえない程度の小声で、文句を言った。
拓哉たち二人は、俺の苦労も知らないで、のんきに歩きながら会話を続けている。
「相変わらず、芸能人並みに凄いな。今年も、全部食べるのか?」
「ああ。せっかく俺にって渡してくれたんだ。来月のホワイトデーまでかかっても、全部有り難くいただくよ」
なんとも生真面目な性格だ。だから女にもモテるのだろう。
「でも、今年もメチャ甘めのチョコがあったら、どうするんだ? それも食べるのか?」
「そうだなぁ。苦手だけど、頑張って食べるよ」
――え? 凄く甘いチョコは苦手?
「お前も変わってるよなぁ。甘いものに目がないくせに、チョコだけは甘いのがダメだなんて」
「俺としてはさ、やっぱりチョコはカカオの濃度で決まると思うんだよね。99%のチョコなんて最高だよ、お前も一度食べてみろって」
おい、おい、おい。あんなに甘党な癖に、なに言ってるんだ?
知らなかった。いや、知らなかったでは済まされない。
「去年くれた美紀ちゃんだっけ? あの子のチョコも、メチャ甘かったんだろ?」
「うん。なんか惹かれるところがあった子だったんだけど、貰った凄く甘いチョコを食べてると、なんか『俺とは合わないのかな』って思って、離れちゃったんだよね……」
ヤバい。ヤバ過ぎる。
どうする?
このまま、拓哉に中身のチョコを食べさせるわけにはいかない。かと言って、佳代子に新しいチョコを作り直させる時間もないし、そもそも連絡の手段がない。
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