2  ― Tukumogami side ―

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 さて、佳代子の手から拓哉に渡り、あとは中のチョコを食べてもらうだけだ。もう俺に出来ることはないが、彼が家に帰るまで中身を無事に守ることに徹しよう。  七号館を出ると、出口で男が一人待っていた。  何度も見たことがある。拓哉が一年生の時から、よく一緒に行動している友人だった。 「悪い、持っててもらって」  拓哉が相手から、大型の紙袋を受け取る。 「構わねぇよ」  紙袋の中は、チョコかクッキーでも入ってると思しき箱が、大量に積み重なっていた。  今日、これまでに拓哉がプレゼントで貰った分なのだろう。拓哉は、俺が入っていた白い紙袋をちいさくたたむと、俺と共に一緒に中に入れた。  二人が歩き出すと、横からフランス製のチョコを包んだパッケージが、ガツガツと遠慮なく当たってくる。 「くそ。高級チョコだと思って、調子に乗りやがって」  周囲に聞こえない程度の小声で、文句を言った。  拓哉たち二人は、俺の苦労も知らないで、のんきに歩きながら会話を続けている。 「相変わらず、芸能人並みに凄いな。今年も、全部食べるのか?」 「ああ。せっかく俺にって渡してくれたんだ。来月のホワイトデーまでかかっても、全部有り難くいただくよ」  なんとも生真面目な性格だ。だから女にもモテるのだろう。 「でも、今年もメチャ甘めのチョコがあったら、どうするんだ? それも食べるのか?」 「そうだなぁ。苦手だけど、頑張って食べるよ」  ――え? 凄く甘いチョコは苦手?  「お前も変わってるよなぁ。甘いものに目がないくせに、チョコだけは甘いのがダメだなんて」 「俺としてはさ、やっぱりチョコはカカオの濃度で決まると思うんだよね。99%のチョコなんて最高だよ、お前も一度食べてみろって」  おい、おい、おい。あんなに甘党な癖に、なに言ってるんだ?  知らなかった。いや、知らなかったでは済まされない。 「去年くれた美紀ちゃんだっけ? あの子のチョコも、メチャ甘かったんだろ?」 「うん。なんか惹かれるところがあった子だったんだけど、貰った凄く甘いチョコを食べてると、なんか『俺とは合わないのかな』って思って、離れちゃったんだよね……」  ヤバい。ヤバ過ぎる。  どうする?  このまま、拓哉に中身のチョコを食べさせるわけにはいかない。かと言って、佳代子に新しいチョコを作り直させる時間もないし、そもそも連絡の手段がない。
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