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「じゃあ、またな」
二人が、別れの挨拶をしている。拓哉が住む、学生用の賃貸マンションに着いたのだ。
夕食の時間には、まだ微妙に早い。帰り着いたら、拓哉はすぐにバレンタインのチョコを食べるだろうか?
これだけの数のチョコがあれば、佳代子のチョコは後の方になるかもしれない。ただ、俺は紙袋の中では上の方に置かれている。順番的には、かなり先だろうか。
ごめん、佳代子。
あれだけ自信たっぷりに、心配するなってお前に言ったのにな。お前が頑張ってる姿も、俺はずっと陰ながら見てきたのに。
……いや、打つ手はある。付喪神としての最後の意地だ。
拓哉がエレベーターを降りて、自分の部屋があるフロアに立った。
もし家に帰り着いてすぐに食べ始めたりしたら、もう時間がない。
俺は、心の中で佳代子に詫びながら、急いだ。
気持ちは焦るが、なかなか進まない。
拓哉が、玄関のドアを開ける。
まだ終わらない。
意識が徐々に遠のき始めた。
もう外の様子は分からない。周囲の音も徐々に聞こえなくなってくる。
体が不意に、ふわっと浮く。拓哉が俺を手に取ったのだ。
――くそっ。意識が朦朧とする。
「あれ? チョコだと思ったら、空だ」
拍子抜けした声がした。
「……イタズラだったのかな」
違う。そうじゃない。
頼む。気づいてくれ。
「あ!」
意識が途絶えようとする中、驚く拓哉の声が聞こえる。それに続いて、拓哉の手により、俺は糊付けされた隅までバラバラに解体された。
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