3   ― Kayoko side ―

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3   ― Kayoko side ―

 私にとって、大学生活最後のバレンタインは、人生を劇的に変えてくれた。  社会人になって暮らし始めた賃貸マンションは、二人で住むには余裕の広さがあった。  共に暮らす拓哉とは、お互い地元の会社に勤務している。  すべて、あの九十九神のおかげだった。  バレンタインの日、ゼミ生の全員が持っている連絡先の一覧表を見て、拓哉から電話があった。  何事かと思って話を聞くと、「すぐに会ってもらえませんか?」とのこと。  ドキドキしながら自分の家の前で待っていると、拓哉が駆けつけてきた。  まさかの相手からの告白。  拓哉の手には、バラバラになった九十九神だった箱があった。――箱の内側にはフタの裏から底や側面など全面に、九十九神が書いたのだろう、私の素直な気持ちがびっしりと文章になっていた。  思わず、大泣きした。三年越しの恋がかなったのと、九十九神が自分の命をかけて私の想いを伝えてくれたから。  バラバラになってしまっていたけど、九十九神だった箱は、家の小物入れに大事にしまっていた。二人の思い出だったし、私の恩人だから。  リビングでは、拓哉がテレビを観ていた。ソファに座って、私が来るのを待っている。  私は、可愛らしい白のティーカップに紅茶のティーバッグを入れて、お湯を注ぐ。  ふわりと、やさしい香りが鼻に届く。 「美味しそうな匂いね」  私は、拓哉には聞こえないように、小声で言った。 「お前の分、半分飲んでいいか?」  からかう口調で、目の前のティーカップ――九十九神が応えてきた。  拓哉と同棲することを決めたあと、二人で行ったフリーマーケットで見つけた。デザインが気に入って買おうとすると、お店の人に言われた。『これ、ずっと売れずに困っていたんです』と。  値引きしてもらえてお得に購入できたティーカップに、再び九十九神が宿るのに、さほど時間はかからなかった。 「いいか? 何度も言うが、今度の俺は割れたら死んでしまうからな。丁寧に扱ってくれよ?」 「はい、はい。分かってますって」  ペアのティーカップ。片方だけ、砂糖を多めに入れる。 「もう持っていくから、静かにしててね」 「了解」  私は、カップが載ったソーサを、片手に一個ずつ持った。 「拓哉、紅茶が入ったわよ!」
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