1   ― Kayoko side ―

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 エプロンを着けると、少し緊張してきた。  喜んでもらいたい。  頼れるのは自分だけ。今から、独り自分の最高傑作を作って届けるのだ。  うやうやしく、箱に向かって一礼する。 「宜しくお願いします」 「いえいえ、こちらこそ」  ――えっ、誰?  反射的に後ろを振り向く。無論、誰もいない。  間違いなく聞こえた。男の人の声だった。 「驚かせたなら、悪いな。俺だよ」 『俺だよ』なんて言われても分からないが、視線だけは声のする方向――目の前の箱に移動する。 「えっと、……あなたなの?」  私の右手が、恐る恐る箱を指さす。 「そうだよ」  かなり軽いノリで返答がきた。 「俺はな、いわゆる付喪神(つくもがみ)だ。敬え」 「はぁ? え?」  意味が分からなさすぎる。  なんで自宅の棚に神様がいるんだ。 「つ・く・も・が・み?」 「そう。付喪神」  間違いないようだ。あくまで自称だけど。  ジッと眺めてみる。どこから見ても、単なる箱にしか見えない。少なくとも買った時はそうだったし、間違っても骨董品などではない。 「ちょっと待って。いろいろ言いたいことはあるけど、買って三年しか経ってない箱が、なんで九十九神(つくもがみ)なんかになってるのよ? どう見ても九十九年も経ってないじゃない。逆サバを読むな」 「九十九年も経たなくても、なる時にはなるもんだ。だいたい、お前が買う前に、店の売り場で二年くらい売れずに残ってたんだよ、俺は」 「え? 嫌だ。あなた、売れ残りだったの? 縁起でもない」  可愛らしいパッケージだと思って購入したが、事実を知って途端にがっがりしてしまう。
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