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エプロンを着けると、少し緊張してきた。
喜んでもらいたい。
頼れるのは自分だけ。今から、独り自分の最高傑作を作って届けるのだ。
うやうやしく、箱に向かって一礼する。
「宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
――えっ、誰?
反射的に後ろを振り向く。無論、誰もいない。
間違いなく聞こえた。男の人の声だった。
「驚かせたなら、悪いな。俺だよ」
『俺だよ』なんて言われても分からないが、視線だけは声のする方向――目の前の箱に移動する。
「えっと、……あなたなの?」
私の右手が、恐る恐る箱を指さす。
「そうだよ」
かなり軽いノリで返答がきた。
「俺はな、いわゆる付喪神だ。敬え」
「はぁ? え?」
意味が分からなさすぎる。
なんで自宅の棚に神様がいるんだ。
「つ・く・も・が・み?」
「そう。付喪神」
間違いないようだ。あくまで自称だけど。
ジッと眺めてみる。どこから見ても、単なる箱にしか見えない。少なくとも買った時はそうだったし、間違っても骨董品などではない。
「ちょっと待って。いろいろ言いたいことはあるけど、買って三年しか経ってない箱が、なんで九十九神なんかになってるのよ? どう見ても九十九年も経ってないじゃない。逆サバを読むな」
「九十九年も経たなくても、なる時にはなるもんだ。だいたい、お前が買う前に、店の売り場で二年くらい売れずに残ってたんだよ、俺は」
「え? 嫌だ。あなた、売れ残りだったの? 縁起でもない」
可愛らしいパッケージだと思って購入したが、事実を知って途端にがっがりしてしまう。
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