1   ― Kayoko side ―

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「まず訊くが、チョコを作る前に、お前は相手の食べ物とか味の好みを知ってるのか?」  九十九神の指摘に、言葉に詰まる。  相手は拓哉(たくや)という人で、私と同じゼミナールで勉強している。  少しでもお近づきになりたいと機会をうかがっているが、いかんせんライバルが多すぎた。  経済学部に在籍しているが、拓哉さんの名前を知らない子でも『経済学部にいる、あのメチャ格好良い人』で、十分女の子同士の間では誰のことか分かるほどの人気だ。  そんな人だから、周りの女子の目もあり、なかなか本人へ話しかけることも出来なければ、怖くてうかつに周囲の人から彼に関する情報を収集することもできずにいた。  要するに、私は憧れているばかりで、なにも行動できていない。  私が何一つ言い返せないでいると、九十九神は芝居がかった咳払いをする。 「教えてやる。あいつはな、学食のカフェで、アホみたいにカフェオレにシロップ入れてるんだ。家で酒飲む時も、カルーアミルクばかり飲んでるような男だ。インド料理屋に行けば、平然と甘口のカレーを注文した挙句に、ラッシーを毎度おかわりしているし」 「なんで、あなたがそんなこと知ってるのよ?」  言われてみれば、いつもゼミでは甘いミルクティーをペットボトルで飲んでいる。 「神様、なめるなよ。俺はいろいろ知ってるんだ。いいか? お前のスリーサイズだって分かる。上から78のBで――」 「叩き潰すわよ」  冗談ではなく、本気で右手に力が入って、握りこぶしとなった。 「やめてくれ。俺は神だが、さすがに潰されたら死んでしまう」 「神様のくせに、根性がないわね」 「根性の問題か? 俺たち付喪神は道具に神や言霊が宿ったものだから、汚れたりしても駄目だし、傷ついたり壊れたりしたら、ふつうに死んでしまうんだよ」 「ふーん」 「だから、俺の場合は水濡れ厳禁だし、落書き厳禁だし、解体厳禁だし、天地無用だ」 「面倒くさいわね。精密機械じゃあるまいし」  私は大きくため息をついた。
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