1   ― Kayoko side ―

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「それで、とりあえず私はどうすれば良いの?」 「あれだけ甘口大好きな男だからな。甘いチョコを渡して、胃袋とハートをつかめ!」  甘いチョコを作れと簡単に言われても、なかなか難しい。 「心配するな。お前が料理に自信がないのも知ってるから、作り方も俺が指導してやる」 「指導!? 妖怪もどきみたいな神様が? それも、バレンタインのチョコの作り方を?」 「とことん失礼な奴だな。――さっきも言ったろ。俺は色んなことを知ってるって」  多分、私の目は胡散臭いものを見る目をしていたのだろう。 「完全に疑ってやがるな。まぁ、良い。今から言う材料と道具を用意しろ」  私が突っ立ったままでいると、『メモ!』と言葉が飛んできた。  いくつかの材料は足りなかったので、近所のスーパーで買い足す羽目になった。  九十九神のレシピは本格的で、「ボールを湯煎する時は、絶対に水滴を中に入れるな」だの、「生クリームをチョコに混ぜるときは、沸騰したままでなく、80度くらいで入れろ」だと、結構細かかった。  慣れない作業に、悪戦苦闘する。  苦労はしたが、出来栄えは完璧だった。 「うむ。結構、美味そうなのができたな」 「へへーん。でしょ?」  我ながら会心の出来だ。嬉しさのあまり、九十九神にウインクする。 「あとは冷蔵庫で冷やしてから、この力作をあなたの中に入れるだけね」 「半分くらい、つまみ食いして良いか?」 「そんなことした日には、あなたには立方体から平面体になってもらうわよ」  握りこぶしを、ちらつかせる。 「だから、死ぬって言ってるだろ」 「はい、はい。水濡れ厳禁、落書き厳禁、解体厳禁で、天地無用ね」  パットの上には、何種類かのチョコがある。この中から、特に出来が良いのを選ぶつもりだった。
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