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君だけが消えた理由(記憶喪失)
にこにことアヤの方を向いて話すリョウの背後から、尋常ではない軌跡を描いてトラックが猛進してくる。
これは、まずい――
「リョウ!」
咄嗟にアヤはリョウを突き飛ばした。訳がわからないリョウが状況を把握できた時には、悲鳴が聞こえて、周囲に人だかりが出来ていて、サイレンが聞こえて、アヤは道路に倒れ、その体の下からは血溜まりがみるみる広がって――
「アヤ……アヤは……」
目も虚ろに独り言のようにブツブツ言いながら、救急車に同乗しているリョウ。
救急隊員たちはそれに応じる余裕がなかった。
廊下のベンチに座っている間、人目もはばからず涙を流し続けた。手術が終わらない。もう夜中なのに。
助からないのかな
弱い気持ちが闇とともにリョウにねっとりと纏わりついてくる。
そんなはずない、絶対助かる。
たとえ後遺症が残っても、命を救ってくれた愛しい人から絶対に離れない。
だから、置いていかないで。
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