1章

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「んっ……ぁあっ……んぁ、だめ、だって、」 「そんなこと言って、体はもっと欲しいってねだってるけど?」 「やっ、ちがっ……人来たらどーすんだって、ちょっ、あっ、そこっ……」 「大丈夫だよ、この時間にこんなところ来るやつなんていねーから」 「……っ! ちょっと、だからっ! っんあ、ふっ……」 放課後、夕日に照らされる教室内に淫靡な水音が響く。二人の男子生徒が、一方はすがりつくように、もう一方はそれをしっかりと支えながら口づけを交わしていた。 お分かりだろうか? ここで、口づけを交わしているのが誰なのか確認してみよう。 そう、二人の男子生徒なのである。 そう!! 二人の!! 男子!! 生徒なのである!!!ガッデム!!!! 俺は教室のドアを思いっきりどつきたくなる気持ちを抑えながら、来た道を戻り始めた。置き忘れた明日が期限の提出物は犠牲になったのだ。南無三……。 ただでさえ教科担当の先生に目をつけられてるのに、これ以上ねちねちと小言を言われたら溜まったものではないけれど背に腹は代えられない。 ……明日、隣のやつに見せてもらうか。 というか、イチャイチャするなら寮でやりやがれリア充共!! なんで俺が空気読んで退場しなきゃいけないみてーな雰囲気作り出してんだ、この野郎! なーにが「大丈夫だよ」だ! 思いっきり俺がいましたけどーーー!? もう片方も流されてんじゃねーよ、もうちょっと真剣に抵抗しろよそこは! 公序良俗を気にしてくれ! 不純同性交遊するのはかまわないけど、場所を考えろ、場所を!!! 一通り頭の中で叫んだところで、一週間に一回は必ず思うことを口にした。 「今からでも共学校に転校できねーかな……それか早く卒業してえ……」 ここは、それなりに深い山の奥にベッドタウンのように位置している、俺が二年生として在籍する私立狛田(こまだ)高校。……全寮制の男子高校である。 学風に惹かれて入ってみたらなんとビックリ。ジ〇リじゃないけども、トンネルのむこうはホモの魔窟でしたって感じだよ。ははははは。……笑えねー。 ちなみに今のようなことは割りとよくある。そして何故か俺はそういう場面への遭遇率が異様に高い。……いや、もしかしたら俺だけじゃなくてみんなこれくらいの確立で遭遇しているのかもしれない。怖いから誰にも聞けないけど。 好みの女子の話をしていたはずなのに、気がついたら友人の恋愛相談()が始まっていたことが片手では収まらないほどあるのだ。 どこで何が行われていようと不思議ではないので、聞いたら現実味が増してしまう。それは嫌だ。 全寮制の男子校ということもあって、もとからそっちのやつもいるし、他のタイプとしては女に嫌気がさして男に手を出している連中もいる。 後者は良いとこのお坊ちゃんたちが財産目当てのご令嬢方に迫られるのが面倒臭くて、偏差値も学費も高いこの高校に入った、というやつだ。 あとはそもそも性に奔放で、女がいないなら男とすればいいじゃないっていうマリー・アントワネットみたいな思考の連中。このタイプには関わらないに限る。 「イチャイチャすんのは良いけど、見せんなよ……ノンケには罰ゲームにしかなんねーよ……」 あくまで一般人の俺は女子との交流が欲しいとため息をつきながら寮への道を戻った。
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