1章

3/39
前へ
/56ページ
次へ
トボトボと重い足を引きずりながら寮(と言いつつ建物の構造は明らかにホテルにしか見えない)へと帰り、自室の扉を開けた。 ちなみに寮の部屋割りは、学年と成績で分けられていて、学年ごとに棟が違い、成績が良いほど上の階の部屋が与えられる仕組みとなっている。 一年の最初に新しい学年の棟へと移り、ルームメイトも変わる、という感じだ。 「ただいまー」 「おかえりー、結太。宿題は無事回収できた?」 「できなかった」 「え、どうして」 「教室、リア充、キス、俺、入れない」 「あー、御愁傷様」 片言な言葉で悲しげに伝えた俺に、同室のそいつは眉尻を下げて憐れむように言った。 背も高く、王子様然とした整った顔立ちを持つ同居人の名前は 逢坂 智尋 (おうさか ちひろ) ルックス良し、性格良し、成績良し、という三拍子揃ったまさに王子のようなやつだ。そんな逢坂とは去年も部屋が一緒だった。 何故かというとそれは簡単で、二年連続で逢坂が学年一位、俺が学年二位だったからだ。学費が高いこの学校に俺は特待生で入っているため、それなりの成績を維持しないといけない。 まじで目玉が飛び出るような値段してるし、どうして俺はこの学校を選んでしまったのか未だにわからない。おしゃれな校舎と綺麗な寮にひかれた結果がこれだ。疑似餌だろあのパンフレット。家から出たくて寮があるところを選んだのに、こんなに私生活の部分で苦労が多いとは思わなかった。 あのオシャレな雰囲気から誰がどうやったらこの状況を感じ取れるのか、そうなると疑似餌って表現はあながち間違ってなさそうだが。 まあ、幸いなことに二位であるということは俺が目立つ理由には全くならない。 そもそも金持ちが多いこの学校で特待生というのは重要なものではなく、むしろあからさまに貧乏なのだと見下されることもある。 次に、一位が逢坂だということ。当然皆の視線は一位である逢坂に全部集中するのだ。 中には好んで、この学校に詳しくない俺みたいなタイプの生徒に色々教え込みたいやつもいるらしいけど、そんな人間はごく稀だ。 ありがとう、逢坂。君がいなければ俺は今ごろホモの餌食だったかもしれない。 ……とはいえ彼がいなくとも俺は狙われるような見目はしていないから心配は無用だっただろうけれど。 この学校にイケメンが多すぎるだけだ、俺は決してブサイクではない。……ではないと信じてる。 「本当、この学校ホモ多すぎワロタ……」 「言葉の内容にテンションが合ってないけど大丈夫?」 「だいじょばない……男同士のキスを俺は何回見れば良いんだ……。ってかお前もすごいよな、毎日あんだけ相手して疲れるだろ」 「まあね、だいぶ慣れはしたけど、あの感じはやっぱり恥ずかしいかな」 「まあ、あれはなあ……」 なんというか、彼の持つ雰囲気も相まって男性アイドルのファンのような状態になっている男子生徒たちを思い返してチベスナ顔になる。 それを恥ずかしいで受け流せるのはイケメンたるゆえなのか、それとも逢坂の性格なのかはわからないけれど後者だと思っておこう。でないと散々オーバーリアクションを取ってきた俺が悲しすぎる。 「まあ、慣れだよね」 悟りを開きかけていそうな逢坂に、俺はそっと手を合わせた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加