1章

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「どっか空いてるか?」 「んー、奥の方少し空いてるっぽい?」 俺よりも10cmほど背の高い逢坂が辺りを見渡してから言った。 別に俺の身長が低いわけではない。そこはきっぱりと否定させていただこう。俺の身長は172cm、それに対して逢坂は182cm……何個属性を盛ったら気が済むんだこのイケメンは。 「まじで? 逢坂、先導頼んだぞ」 まあ、身長云々の話は今に始まったことではないのでとりあえず今は流して、逢坂にいつも通り道案内役を頼む。 食堂も十分に広くはあるのだが、タイミングによっては席が空くのを待たなくてはいけないときもあるので空いているとラッキーだなと思う。 空いていても、基本的に俺は逢坂と二人で食事をとるのでボックス席だと座りにくいとか、地味に席を探すのが難しい。 「はいはい、仰せのままに。お姫様」 「おっお前、それっ、その呼び方は封印しろって言ったよな?!」 「そうだっけ?」 思いっきり、すっとぼけられた。おそらく、さっきの王子様(笑)に対する仕返しだろう。こいつが意外と根に持つタイプだってこと忘れてた。 「……とりあえず席見つけよーぜ。腹減った」 「だね。あ、あそこ空いてる」 席を見つけたかと思うと、急に歩くスピードを上げた逢坂に俺は慌てて付いていく。身長差プラス足の長さの違いのせいで、逢坂が早歩きになると俺は小走りでついていかなくてはいけないので大変だ。 ……決して俺の足が短いわけではない。そんなことは一言も言っていない。 ショッピングモールのフードコートのように並べられた机と椅子の間を上手くすり抜けて彼を追った。 向かいから来た生徒とすれ違おうとしたとき、肩が当たって、相手がバランスを崩しかける。 「うおっ、大丈夫か?」 咄嗟に腕を掴んで引き留めると、申し訳なさそうに謝られた。またしても視界に入る整った顔に、この学校何でこんなにイケメンが多いんだと心の中で行き場のない愚痴をこぼす。 「いや、ぶつかったのはお互い様だし気にすんなって」 そう言って掴んだ手を離し、彼の腕を軽く叩いた。そこで、逢坂を追いかけなければと思い「じゃあな」とだけ告げて彼の元へ向かった。 「あ、結太こっち!」 しばらく進むと、ボックスシートの角の席の前に立つ逢坂が見えた。ついでに、彼に集まる視線も感じる。 やっぱり人気なんだよなあ、こいつ。 この学校での彼の苦労を称えつつ、ようやく見つけた席に羽織っていたパーカーをかける。これからメニューを決めるために、離れている間に席を取られでもしたら堪らない。 食券機の前に立つと迷わずに醤油ラーメンを選んだ。どうやら逢坂は味噌を選んだようだ。味噌かどうかで悩んで醤油にしたので、ラッキーだった。これで逢坂から一口もらえる。 「これ、お願いしまーす」 「はい、醤油ラーメンね」 食堂のおばちゃんに券を渡すと、光の速さでラーメンが出てきた。いつも通りだけど、この食堂のおばちゃんたち何者なんだ。
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