1章

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伸びないうちに、と麺を啜る。うん、やっぱりめちゃくちゃ美味しい。 「逢坂、それ一口くれ」 「いいよ、その代わりそっちのも少し頂戴」 「もちろん。……あー、味噌も美味しい」 「ラーメンの味って本当選びがたいよね」 「それな、俺の中の永遠不動の一位は醤油だけど、全部美味しいから困る。あ~、今度帰省したら地元のラーメン店行きてぇな。魚介系のラーメンが恋しいわ」 なんてことをつらつらと話しながら、食べ進めていると見知った顔がニヤニヤと笑いながら俺の隣に腰かけた。そのことには特に触れず、俺の視線は逢坂とラーメンの間を行ったり来たりする。 「よっ、王子に姫。いつもいつもお熱いことで」 「そういえば逢坂、お前英表の課題のスピーチ原稿ってもう終わってる?」 「大体は。後少しだけ推敲して、誤字脱字を確認したら終わり」 「おーい、逢坂? 北見? 聞こえてるよね?」 「おっ、まじ? もし時間あるなら、俺のやつ見てもらってもいいか? 確認はしたけど、自分じゃ気づかない間違いとかありそうで不安でさ」 「それぐらいならお安い御用だよ。何なら俺の確認してもらえるかな?」 「もちろん。ありがと、助かるわ」 「逢坂君、北見君、先ほどの言葉は撤回するのでガン無視は止めていただけますか、地味にダメージが……」 そこでようやく俺たちは、グスングスンと泣き真似をし始めた男の方を見た。 「何のようだ、ヤリチン」 「随分と辛辣な言い方すんねえ、俺なんかしたっけ?」 俺は液体窒素ぐらいの温度の目でそいつを見る。 こいつは阿納 瑠樹(あのう るき) 性に奔放なこの学校でもヤリチンとして知られるくらいのヤリチンクソ野郎だ。毎日セックスのことばっか考えて生きてるこいつの脳ミソは猿並みなんじゃないだろうか。……猿に失礼なこと言ったな。 「なんかしたっけ? は記憶に補正かかりすぎてるだろ。自分の胸に問いかけてみろ。お前が俺にした数々のセクハラ俺は忘れてないからな!」 「俺もだよ。自業自得って言葉知らないのかな?」 何せ、ファンもそこら辺の生徒も関係無く手を出すこの男。俺も逢坂も、一年の最初にちょっかいを思いっきりかけられたのだ。 手は出されていない。俺は未だに綺麗な体のままだ! 誰だ、童貞って言ったやつは! そうだよ! 童貞処女だよ、何か悪いか! ……ここで処女ってワードが出てくるようになったあたり俺もこの学校に毒されてきてるな。 まあ、とにかく俺と逢坂がこの男を危険人物だと認識している、とだけ覚えて貰えたらいい。 「……逢坂、食べ終わったし部屋戻ろうぜ」 そう言って席を立とうとすると、隣の阿納に邪魔をされた。顔に浮かぶ軽薄な笑みのせいで何を考えているかちっともわからない。 本当、何なんだこいつは!
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