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3花
薔薇の甘ったるい香りがして、廻は深い眠りから目を覚ます。天井には和風の照明が吊るされているのが見えた。辺りを見回すと、広々とした和室で、襖で仕切られて様々な小物が置かれていた。和室の中心には、大きな布団が敷かれてその上で、廻は起きたのだった。ふと、自分の身体を見ると上品な生地で作られた白地に薔薇柄が描かれた着物を着込んでいた。
(ここは一体……?)
視線の先に姿見があり、自分の姿を見て驚いてしまった。首には、茨と白薔薇で作られた首輪が巻きつかれていた。他にも、首や腕や足等には痛々しい噛み痕が身体中に残されていて、廻は思い出してしまった。
(そういえば……抱かれたんだった……)
祖父母の家に辿り着いて眠りに着いたはずだったが、次に目を覚ました時には森の中にいた。夜中の森を彷徨って歩き回っていると、小さな社を発見してしまった。その社から封印されていたはずの【花喰い鬼】が現れて、廻を茨で拘束すると何処かへ連れ去った。そうして、花喰い鬼が満足するまで抱かれてしまった。
その事を思い出して、妙に身体が気怠い感じがするのと、与えられる快楽に悦がり女の様に喘いでしまった事に対して、羞恥心から顔を真っ赤に染まらせる。身体は情事の痕を色濃く残していたが、綺麗に身体は清められていた。
ふと、花喰い鬼の姿が無い事に廻は気付いた。もしかして、花喰い鬼がいない今ならば、逃げる事が出来ると廻は考えてしまった。花喰い鬼は廻に対して殺しはしないと言っていた。けれど、花喰い鬼の切れ長の紅色の瞳は、廻に対して愛憎の感情が篭った冷たい瞳で見下ろしていた。その事を思い出して、廻はびくりと身体を震わせる。ここから逃げた方が良いと思ってしまった廻は、身体をのろのろと起こすと襖まで歩いて行き、手を掛けるのだった。襖は自然と開いたので、開いた先を覗いてまた大きな和室が広がっていて、襖で仕切られていた。廻は広い屋敷の中を一人だけで出口を探し求めて、歩き回ったのだった。
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