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ゆらゆらと電車に揺られながら、のんびりと窓の外を見ると、澄み切った青空が広がっていた。けれど、澄み切った青空とは裏腹に、青年の顔は暗く沈んでいた。柔らかい黒色の髪に、瑠璃色の瞳。白色のパーカーを着込み、黒色のズボンを履いている童顔の青年。名前を花咲廻(はなさきめぐる)と言った。廻は、自分の生まれた故郷に帰郷する為に、時間をかけて電車に揺られていた。
幼い頃、廻は祖父母と一緒に暮らしていたが父親の仕事の都合で、祖父母を残して都会へと出て行った。都会を出てからも、何回も両親と弟と引っ越しを繰り返した。廻も大きく育ち、独り立ちをする頃には、すっかり自分の生まれ故郷の事を忘れていた。
いつもの様に暮らしていた廻の元に、一通の手紙が届いた。それは、祖父母が亡くなったという知らせだった。後から聞いた話だと、祖父母は病気で亡くなったそうだ。その時の廻は都合がつかなくて、葬式に出る事が出来なかった。ようやく落ち着いて時間が出来たので、久しぶりに祖父母の家に帰ろうとしていた。電車から降りて、近くにあるバス停まで歩いていく。バスに乗り込んでは、ゆらゆらと揺られていた。外の景色を見てみると、都会のコンクリートジャングルとは違い、自然豊かで大きな森が広がっていた。
(そういえば……)
ふと、廻は祖母から聞いた昔話を思い出した。廻が住んでいた故郷では、遠い昔に【花喰い鬼】という鬼の化け物がいたそうだ。その鬼を封じた小さな社が、森の奥深くにあるから、絶対に近付いてはいけないと、強く言い聞かされていた。どうして、近付いていけないのか、その理由は結局、分からなかった。それでも、祖母が話す時の表情は真剣そのもので、幼心に廻は花喰い鬼が封じられている小さな社に、遊び半分で近付いてはいけないと思ったほどだった。
それから、程なくして廻は父親に連れられて、生まれ故郷を去った。どうして、今頃になって祖母から聞かされた昔話を思い出したのかは分からない。けれども、廻は妙な胸騒ぎを覚えて仕方が無かった。ざわざわと風が吹き荒れて、緑色に染まった木々を揺らすのだった。
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