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紅色の瞳が鋭く細められたかと思うと、廻の腕や足に、しゅるり、しゅるりと、茨が絡みついていく。
「や、やめっ……!」
廻は顔を青褪めさせながら、必死に身体を動かして逃れようとした。けれども、茨の力が強いせいか身体を拘束されてしまい、その場を動けなくなってしまった。ざり、ざりと花喰い鬼が地面を踏みながら、ゆっくりとした足取りで、廻の方に向かい歩いてくる。
「やだ……やだっ、離して……っ!」
身動ぎしながら茨の拘束を解こうとするが、解けずにさらに強い力で巻き付かれてしまう。思わず茨に巻き付かれる苦しさに廻は喘いだ。
「……お前は、あの時みたいに、また『逃げる』のか」
その地を這う様な寂しさを滲ませた低い声音に、廻は驚いてびくりと身体を震わせる。目の前に立っている花喰い鬼の紅色の瞳を見て、さらにぞっとした。明らかに、廻に対して憎悪と言った負の感情を抱いた冷たい紅色の瞳をしていた。廻が怯えて声が出せないでいるのにも関わらず、花喰い鬼は「まぁいい」と短く告げると、廻の頬をするりと撫でる。花喰い鬼の手はひんやりとして冷たくて、廻の身体をさらに震え上がらせる。まるで、愛しいものに触れるかの様になぞってくるので、廻は理解が追い付かず混乱していた。そうして、廻の事を強く抱きしめると、花喰い鬼は三日月の様に弧を描きながら歪に笑んだ。
「あの時の恨み、忘れんぞ」
そう告げると同時に、強い風が花喰い鬼と廻の周りに吹き荒れる。強い風が止むと、辺りには誰一人もいなかったのであった。
不気味なくらいに冷たい光を放つ満月が浮かぶ夜空の下、花喰い鬼と邂逅してしまった生贄の話が始まろうとしていた。
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