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有無を言わせない強い口調で、鋭い爪が廻の細い首に触れてくる。瞬時に、廻は花喰い鬼に逆らったら殺されると察してしまい、瞳を潤ませながら液体をゆっくりと飲んだ。薔薇の花びらが浮かんだ薄紅色の液体は、砂糖菓子の様にとても甘ったるく薔薇の香りがした。ごくり、ごくりと硝子の小瓶に入った液体を飲み干していく。そんな廻の様子を、花喰い鬼はじっと紅色の瞳で見下ろしていた。全て飲み干すと、じわじわと廻の身体に変化が訪れる。妙に廻の身体に熱が篭っていき、吐く息も艶っぽい。額に汗が滲み、潤んだ瞳からは涙が一筋零れ落ちる。そうして、廻の瑠璃色の瞳から零れた涙が、白薔薇の花びらに変わっていた。廻は自分の身体の変化に戸惑い、大きく目を見開くのと同時に、花喰い鬼が薄く笑い、布団の上に落ちた白い薔薇の花びらをぱくりと食べる。
「ああ、美味いな」
そうして、戸惑い怯える廻の頬をするりと撫でながら、花喰い鬼は残酷に告げる。
「お前は、花喰い鬼の【生贄】の一族の末裔だ。……その証拠に、涙が薔薇の花びらに変わった」
「そ、そんなことって……!」
廻は、まさか自分が花喰い鬼の生贄の末裔だと、今まで知らなかった。家族から一度も聞いた事がなかった。けれども、今思えば、祖母が真剣な表情で「小さな社には近付いてはいけない」と警告していた事が、何よりの証拠だったかもしれない。
目の前にいる花喰い鬼に食べられて、殺される所を想像してしまい、身体を震わせる。そんな怯える廻を見ながら花喰い鬼は、紅色の瞳を細めながら薄く笑む。廻の唇を指でなぞる様に触れる。その刺激だけでも、情欲の火が灯され性感を煽られてしまい廻は「んっ」と甘い声を漏らしてしまう。
「だが、お前を喰い殺したりはしない。……俺の番になってもらう」
「つ、つがい……?」
「ああ、お前にこの言葉は通じないか。……俺の嫁になってもらうとでも言えば分かるか?」
「そ、そんな!?俺、男ですよっ……!」
「性別なんて、俺からしたら些細なものだ」
花喰い鬼が悪い笑みを浮かべると、廻の着ている寝間着にそっと触れる。「邪魔だな」と呟いた瞬間、無遠慮に鋭い爪でびりびりと廻の寝間着を一気に切り裂いていく。
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