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三章/朝の二人
目を覚ますと、彼が私を見下ろしていた。私の寝顔を、ベッドに腰掛けて眺めていたらしい。既に朝の支度は終えているようで、湊さんは酷いショートスリーパーである。教師と生徒の関係だった頃にも聞かされていたが、一緒に寝るようになってから実感した。
寝ぼけ眼で彼の顔ばせを捉えると、徐々にピントが合っていく。湊さんが私の頬を撫でた頃に、ようやく思考が覚醒した。昨晩はイタリアでの大きな盗みを終え、渡仏したばかりだった。偽名で借りておいたホテルで、私達は夜を明かし今に至るのだ。
「おはよう俺のモナムール」
「……おはよ、……私のプランス」
そう言い合って、私はのそりと起き上がった。少し見つめあって、ふっと互いに笑う。
これからの仕事は山積みである。まず私はフランス国家警察等の機密データをクラッキングする必要がある。この国で、湊さんの身元がどれだけ割れているかを調べねばならない。以前は湊さんが自分で行っていたが、半年ほど前から私が代行している。彼の力になりたくて、ずっとエンジニアリングの教育をしてもらっていた。ようやく湊さんに認められて、今では彼の部下達とも仲良くやれている。
彼と出会って、本当に変われたと思う。自身に付けた枷を外し、解き放たれ、強い意志を持つ事が出来るようになった。かつての私の、諦念という常識を打ち壊してくれた。彼は、私の唯一の『黒い白鳥』なのだ。
最初に踏み込むのはどの組織のコンピュータにしようかな。着替えながら、そんなビュッフェのような事を考えていた。
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