三章/朝の二人

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ソファに座って新聞を読む湊さんの隣に、私も腰掛けた。目の前のローテーブルに、いれたての紅茶を二人分置く。ルームサービスだが、案外良い茶葉らしい。香りが芳醇だった。 「ありがとう」 「うん」 返事をしながら窓へ目をやる。レースカーテン越しに午前の日が眩い。小鳥のさえずりと、観葉植物の明い緑が相まって爽やかだった。 少し躊躇ってから、口を開いた。 「湊さん」 「うん?どうした」 「あの時言ってた黒い白鳥って、金融経済用語の『ブラックスワン』の事?」 「あぁ。解けるの、意外と遅かったな」 彼が私を攫ったあの日から、一年が経過していた。あの言葉の意味すら、聞く暇がない程目まぐるしい日々だったから。最近は逃亡生活、ひいては怪盗業も慣れてきて、やっと黒い白鳥の事を問うたのだ。あの日、私の手を引いた黒い白鳥の真意を。 「……確かに、湊さんは黒い白鳥だった」 呟いて、彼の肩に頭をもたれる。気恥ずかしくて目を伏せると、湊さんがふっと、息をつくように笑む気配がした。新聞の閉じられる音がして、湊さんは適当にそれを机に放った。次いで彼の掌が私の頭を撫でた。手つきは、酷く穏やかだった。 「良かった」 声色は軋むように焦がれていて、彼の囁きは朝日に溶けていった。
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