11.優しい風に吹かれて

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「はい、もう園長先生にお返事もしてあるので」 もしも私が、母園で働くことを決める前に創さんとこうなっていたら。きっと東京を離れるという選択はしなかった。 これでいいんだと思っているのに、引き止めて欲しいと、離れ難く思って欲しいと思ってしまう私はワガママだ。 創さんのことをどんなに信じていても、彼を好きだからこそ、いろんな“もしも”が頭を過ってきてしまう。笑って強がっても、不安がないわけない。 「両親に、もう少し親孝行もしたいんです」 「そうか」 短くそう言った創さんは、どうとも付かない表情でホットコーヒーを飲む。 「創さん」 「ん?」 「私の採用は、産休に入る先生の代わりなんです。とりあえず1年という約束で……。それで」 創さんはガラステーブルにカップを置き、ふと私の方を見て少し目を見開いた。
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