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「これ……え?」
お花? スーツ? あ、そっかさっきまでお仕事だったから……。
頭がそう解釈したところでお疲れ様と言おうとすると、創さんが先に口を開いた。
「結花、結婚しよう」
私の大好きな、落ち着いた低い声が心に響く。
──え?
頭は真っ白。何も言葉にできず、予想もしていなかった、まるで夢みたいなこのシーンに花束を抱きしめながらただ佇む。
「結花?」
彼の大きな手が、私の頬に優しく触れた。
「…………はい、よろしく、お願いします」
この現実をやっと理解して、一瞬で溢れ出した涙で視界がぼやける中、なんとかそう答えた。創さんの口角が、柔らかく上がった気がした。
「結花、上がってもらいなさい」
振り向くと、廊下には微笑むお母さん、その向こうにお父さんの背中がちらっと見えている。まるで、こうなることを知っていたみたいに。
「…………………うっ……創さん、外堀から固めるくせ、ずるいです」
ははっ、と、創さんのいたずらな嬉しそうな声がした。
泣きすぎて乱れる呼吸を整えようとすると、花の優しい香りが鼻いっぱいに入ってくる。
私はやっぱり、これからも創さんには敵う気がしない。
それでも、この先もずっと、そんな“あなただけを見つめています”。
END
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