第二章

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 滞りなく流れる日常から、また一人、人が減った。 「津村さん休みだって。なんでだろ」 「ビビったんじゃないの?なんか知り合いだったんでしょ、亡くなった人」  一昨日亡くなったシマさんこと三島さんの死亡事件は殺人事件として報道された。犯人は不明。体には二十以上の刺し傷があり、死因はそれによる失血死らしい。凶器となった刃物はトイレにあったらしく不思議な事にカッターやナイフなど多岐にわたるらしい。わざわざいろんなものを用意したなんて不思議、と美織は興味なさげに呟いた。そして、ネットニュースを閉じてじっと見た。 「そろそろさ、関わるの止めたら」  わかってる。こんな事件に首を突っ込んでいいことなんて何もない。でも、今津村さんが危ない目に合おうとしているかもしれないのにただ見ているなんてできなかった。  一人にならないように気を付けて  曖昧なメッセージを送ってみたが既読が付いただけだった。  ま、見ているならいいけど。それに、多分仲間の人たちにも警察は行くと思うから今すぐ何かすることはないんじゃないかとは思うが、警戒しておくに越したことはないはずだ。 「あんたも一人にならない方がいいよ。吹奏楽部だってそこそこの時間まで部活してんだからさ」 「うん。もうお母さん心配しちゃって。今日も迎えに来てくれるって」 「へぇ良かったじゃん」 「そうなんだけどさぁ。仕事もあるから申し訳ないって言うか」 「カフェだっけ」 「カフェなんてこじゃれてないよ。喫茶店みたいなもの」  両親は家の下で小さな喫茶店を経営している。ジャズが好きなお父さんが脱サラして始めた昼間は喫茶店、夜はジャズバーという不思議な店だ。元から人好きの両親の人柄か盛大に繁盛しないまでもそれなりにうまくお客さんが入っていた。 「忙しいのに迎えは悪いなぁ」  実際歩いて三十分、車で十分の道のりだ。大したことはないし運動になるからいつも歩いて通っていた。しかし、今回三島さんがやっていたことも公表されてしまいお母さんはナーバスになっている。これまでかなりの人数に無理に連れ去ってレイプしていたらしく報道されてからたくさんの被害者が現れた。連日ニュースでも取り上げられ、あの公園のトイレにも報道陣が押し寄せているらしい。レイプの現場となっていたのはあの公園の公衆トイレだったのだ。
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