第三章

2/12
前へ
/39ページ
次へ
 「ねぇ、何のつもりよ!」 学校に行くや否や空き教室に連れ込まれ黒板に押し付けられた。ぶつけた肩が鈍い痛みを訴える。目の前には目を吊り上げた津村さんが胸ぐらをつかんで荒い息を吐いている。 「え、突然何?」  数日ぶりに学校で会ったなと思った矢先に捕まった。掴む力は思いのほか強くて息がつまる。本当に何で怒られてるかわからない。 「今更とぼけんのやめてくれる?全部あんたでしょ。あんたが愛理達を脅して転校させたんでしょ。心配するふりして本当に最悪。どうかしてるんじゃないの」 「待って。どういうこと。美琴ちゃん達のこと脅してなんかないし、なんで脅されてるの」 「いいよ、そういう演技は。いい加減本性現しなさいよ!」  さっきから全然会話にならない。何故か津村さんの中では私が悪役になっていて全部私のせいらしい。向こうが聞いてくれないんじゃ話は一向に進まない。 「本当になんなの?わざわざ脅迫メールなんか送ってきて、挙句に心配してるふりしてわざと不安を煽るようなメッセージを送ってきて。そんなに私が嫌いなわけ?」 「いや、だからなんことだか」 「もー、いい加減にしてよ!本当にヤダ、なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの?」  叫び散らしていたかと思ったら今度は泣き出した。ボロボロと涙をこぼしながら頭を抱えていやだいやだ、と呟いている。駄々をこねる子供みたいだ。 「ねぇ、津村さん。本当に私は何もしてないよ。ただ、三島さんがレイプ常習犯ってきいて津村さんは大丈夫か心配になってメッセージを送っただけ。本当に変な意味はないよ。ねぇ、誰かから脅されてるの。悩んでるなら教えてよ。一人で悩んじゃだめだよ」  殺人事件に遭遇して、死体を見てしまって、しかもその死体が知り合いで、ここ数日でいろんなことがあって精神的に限界だったんだと思う。私だってきつかった。仲のいい友達が一人ずつ消えていってすでに不安だった津村さんにとってどれだけ辛かったか。今の津村さんは明らかに正常じゃない。顔も分かりやすくやつれ、疲れ切っている。少し前までの化粧ばっちりな彼女の面影が全然ない。本当に酷かったら病院でも勧めよう。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加