第三章

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「美琴ちゃんも脅されてたって言うの?」 「多分。どういわれてたかわかんないけど」 「因みに、お金をもらったのは?」 「あいりん、ゆめゆめ、みっこと私」  やっぱり。今回の連続転校事件の当事者だ。  自業自得。  その言葉が脳裏によぎる。それだけ彼女のしたことはひどすぎる。 「メールが来て親にすぐ転校したいって言ったの。でも、ダメだ、理由を言えの一点張りでさ。ねぇ、どうしよう。このままじゃヤバイいって。助けてよ木原さん」  この期に及んで何を言ってるんだろう。復讐は良くないことだとは思う。だけどそれだけ傷つけられた人がいるんだ。それなのに自分のことになったら他人に泣きついて。そもそも私がどうにかできる問題じゃないのに。 「この女子生徒って誰」 「クラスの笹木さん」 「え」  まさかの名前に頭が真っ白になった。笹木さんは同じクラスで同じ吹奏楽部の友達だった。おっとりした子で、部活の時はフルートの笹木さんとクラリネットの私はそれなりに仲良くしていたと思う。二か月くらい前から突然学校に来なくなって何回かメッセージを送ったけど返信すらなかった。それでも時々、楽譜とか部活の配りものを届ける仲だった。それなのに、彼女がレイプにあって苦しんでるなんて知らなかった。 「木原さん部活一緒だし、仲良さげだったから絶対復習しに来たと思ったの」  木原さんが学校に来なくなってからも、彼女たちは何食わぬ顔で過ごしていた。罪悪感もなく。 「信じられない」 「そんなこと言わないでよ。謝るから、笹木さんに。土下座でも何でもするから。だから助けてよ」  全身の熱が冷めるのを感じる。目の前で縋って泣くこの人がとてつもなく汚くて醜いものに見えて仕方なかった。笹木さんはとても女の子らしいかわいい子で、人前が苦手で、と控えめに微笑んでいた。知る範囲では彼氏もいなかったしあまりそういうことに慣れていないような純粋な子だった。それなのに、遊び半分の金もうけの餌食にされたんだ。 「ごめん」  自分でも驚くぐらい冷たい声だった。もう、顔もみたくなかった。
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