第三章

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 女子はグループになってご飯を食べている。テレビの話をしたり、イヤホンを分け合って音楽を聴いたり、趣味の話をしたり。いろんな会話が飛び交っている。その中で男子は悪ふざけしたり、スマホゲームをしたり、そっちはそっちで盛り上がっている。机に突っ伏して一人でいる人もいるけど別にいじめられているわけじゃない。小林くんはいつも一人。最初のうちは話しかける人もいたけど、一人がいいと断られそういうものかと存在が空気になっている。そんな、なんてことない日常は今に始まったことじゃない。この高校に入学して同じクラスになって、徐々に出来てきた。もう、冬になりそろそろ雪が降りそうな時期の今はとっくにこの当たり前になれていた。そんな日常の裏であんなひどい出来事が起きていた。被害者だけが泣き寝入りして、加害者は平然と日常を続けていた。  その事実を私は何にも知らなかった。毎日が平和だと信じて疑わなかった。 「大丈夫か。ぼうっとしてるよ」  具合悪いの、とのぞき込んできたのは美織だった。美織は何も知らない。私は当事者しか知らない、部外者が知ってはいけなかった事実を知ってしまった。この、一人で受け止めるには重すぎる事実を美織に話してしまいたい。でも、勝手に話すわけにはいかない。笹木さんが、もし私なら、レイプ被害者だって知られたくない。
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