第一章

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 私が所属する吹奏楽部は超強豪でもなく、かといっても弱小でもなく普通の部活だった。十八時に部活が終わり片付けて学校を出れば少し日が暮れ始めていた。同じく部活帰りの生徒がちらほらいる。他にも保育園の帰りかスーツ姿の女性と手をつなぐ園服を着た小さな女の子の親子や、遊んでいたのか元気に走り抜いていく小学生の集団と出会う。そんな中見覚えのある女性が前を通った。 「あ!木村のおばさん」 「あら梨花ちゃん。学校の帰り?」  自転車に乗っていたのは近所に住む木村さんの奥さんだった。息子さんは、私が小学一年生の時に六年生と言う微妙な年の差で遊んでもらったけど親しくなく、今ではおばさんのほうが親しくなってしまった。気さくで噂好きの彼女に会えたのは今日一のラッキーかもしれない。 「そうなんです。お買い物ですか?」 「そう、今日はカレーにしようと思ってゆっくりしていたらこんな時間よ」 「いいですね。そういえば今日美琴ちゃんが突然転校して」 「えぇ!美琴ちゃんって林さんの所よね」 「そうですそうです。何にも聞いてなくてびっくりしちゃって。何か知りませんか?」 「全く知らなかったわ。転校ってことはお引越しされたのかしら。いや、でも高校を変えるだけならお家は引っ越さなくてもいいわよね」  おかしいわ、とペラペラ話してくれたがやっぱり知らないらしい。  確かに引っ越すなら引越し業者が来て近所の人に見られるだろうし、そうなれば彼女が知らないはずがない。 「そういえば、今日ゴミ出しに出たんだけど、その時に既にお父さんの車がなくってね、おかしいなぁと思ってたのよ」 「車が?ちょっと早く会社に行ったとかじゃないんですか。それとも昨日飲んでタクシーで帰ってきたとか」 「そう、朝はそう思ったんだけどね、なぁんか今思うと人の気配がしないって言うの?そんな感じがして」  木村さんは美琴ちゃんの家の近くに住んでいる。私も同じ学区内だが少し家が遠い。少しと言っても数分歩けば着くし特に遠回りになることもないか、と木村さんと並んで歩く。 「そうそう、お隣の竹内さんの息子さん、東京の大学に行ったの、知ってる?すごいわよねぇ」  木村さんと一緒にいると話題が尽きなくて楽だ。次から次に話が飛んで飽きない。そして毎回よくこんなにネタ持ってるな、と感心するのだ。 「あ、ほら、電気ついてない」  歩いていれば美琴ちゃんの家の前に来ていた。
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