完璧でかわいい後輩とバレンタインデー

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 私はすぐに重そうなスクールバッグと大きく膨らんだ紙袋の存在に気づく。その中には色とりどりの包装紙とこの時期恒例らしい、風物詩の数々。 「今年もえげつない量だね」  そう問うと、彼女は複雑そうな表情を浮かべる。 「もしかして最高記録なんじゃない? いくつもらったの? 」 「男女合わせて35個……いや、36ですかね」  さらっと数をあげた彼女に戦慄した。 「男子の目の敵にされるね」 「まあ、皆部活の後輩とか生徒会つながりとかそんなんですけど」 「ふーん」  予想よりいくらか不満げな声が自分の口から漏れ出たのが分かった。  そんなん、とは言っても彼女の人徳、彼女への好意があってこその数だ。紙袋の中身をちらりと覗くと明らかに市販のものでないものもいくつか見受けられた。美月がモテる理由は分かるし恋人として鼻が高いのも事実だが、そうは言ったところで面白くないことは面白くない。  あわよくばお近づきになろうという輩もいたはずだ。もしかしたら告白されたかもしれない。ちゃんと断ってくれただろうか。  彼女は利口だから、私に余計な心配をかけさすまいとそういうことは言わないが。  その気遣いがちょっと腹立たしく、気に食わない。 「……あの、」 「ん? 」  控え目な声に隣を見る。 「今年は、ないんですか? 」  そう。昨年のバレンタインデーは私から渡したのだ。手作りのチョコレートブラウニーをピンクのラッピングペーパーに包んで。紅茶に合うように、少し苦めに作って。その時は喜んではくれたが、チョコレートが大量に送られてくる時期にチョコレートを贈るのはどうも気が進まなかった。ホワイトデーのお返しを考えるものもあるだろう。しかし、そこを聞いてくるあたり、私に愛されているという自覚はあるらしい。私は上目遣いで意地悪げに笑った。 「そんなにチョコがあるんじゃいらないんじゃない?」  私がそう言うと、不機嫌そうに顔をそむけた。そして、聞こえるか聞こえないかという声で呟く。 「……真昼先輩だけは別です」  美月はチョコレートの重みでずり下がった紙袋を肩にかけなおした。  手元にあった缶コーヒーの残りを飲む。  私に足りないのは、こういうかわいげなのかもしれないなあと他人事のように思う。
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